Appleの節税手法 国際論議に

スポンサーリンク




 議員や傍聴人の鋭い視線が身につき刺さる。アップルの最高経営責任者(CEO)、ティム・クック氏(52)には、さながらその場が自らを裁く法廷のように思えたのではないか。「課税逃れではないか」「言語道断だ」-。5月21日の上院公聴会。アップルが海外子会社と各国の税制の違いを利用して巨額の納税を回避しているとされる問題で、証言に立ったクック氏に、議員から次々と厳しい質問が浴びせられた。

 アップルをはじめ、グーグルやスターバックスなど国際的に事業展開している米大企業の“巧妙”な節税手法に、厳しい監視の目が向けられている。米国だけでなく、欧州など各国でも多国籍企業の租税回避を批判する声が相次ぎ、波紋が広がっている。アップルなどが採用している節税手法は、中には複雑なものもあるが、だいたいパターンが決まっている。法人税率が低い国に子会社や関連法人を設立し、利益を移転・圧縮するなどして納税を抑える手法だ。

 たとえば、上院の報告書や米メディアによると、アップルは特許権の使用料などの名目で、アイルランドの子会社に世界各国で稼いだ利益の多くを移転。米本土の法人税率は35%だが、アイルランドは12・5%と低い。さらにタックス・ヘイブン(租税回避地)として有名なカリブ海の英領バージン諸島の子会社にも利益を移し、納税を大幅に抑えている。2011年には世界全体で342億ドル(現在のレートで約3兆4400億円)の利益を挙げたが、支払った税は10%未満の33億ドルにとどまる。

 だが、こうした米企業の節税手法は以前から知られ、今急に明らかになったという話ではない。それに、こうした企業の肩を持つわけではないが、彼らが行っているのは国による税制の違いをついた「節税」であり、「脱税」ではない。クック氏は「払うべき税は払っている」と訴え、米議会も「違法ではないが…」と歯切れが悪い。思うにアップルが叩かれているのは、これまでのアップルの説明不足に加え、米国を代表する超優良企業への「やっかみ半分」(市場関係者)と、収益を積み上げながらも株主への利益還元にあまり積極的でなかった面も影響しているようだ。

 しかし、個々の企業を叩くだけでは事態の改善につながらない。現地法人の納税額が低すぎるとして英議会で批判されたスターバックスは、自発的に法定以上の法人税額を納めることで英当局と“手打ち”したが、本質的な解決には遠い。違法でなければ何をやってもいいとはいわないが、多国籍企業が増えて経済活動がどんどんグローバル化する中、コストと税負担を最小限に抑えようとする企業の行動は合理的だ。そうであれば、遠回りのようでも各国が連携し、法人税制と企業の節税に向き合う国際的な議論を深めるしかなさそうだ。

 ドイツやフランスは銀行に低税率国での事業内容や顧客情報などの報告強化を義務づける方向で、英独仏にイタリアとスペインを加えた5カ国は税務情報を交換することで合意した。経済協力開発機構(OECD)も5月30日に閣僚理事会を開き、多国籍企業の租税回避防止の決意を示した声明を採択。具体的な行動計画を6月中に策定することになった。6月17、18日に英国・北アイルランドで開かれる主要8カ国(G8)首脳会議でも、多国籍企業の租税回避問題は主要議題となる見通しだ。

 ただ、国際協調といっても言うほど簡単ではない。アイルランド政府は「アイルランドの税制は公平だ」とし、アップルなどを特別扱いしていないと主張している。アイルランドのような小国にとって、企業誘致による経済活性化を目的とした特徴ある税制も、世界経済で生き残る武器の一つと言いたげだ。だが、これだけ騒ぎが大きくなれば、低税率国も交えて国際的な税制論議を進めていくしかなかろう。その過程で各国が腹を割って知恵も出し合い、建設的な成果が出ることを期待したい。(柿内公輔 ワシントン支局)


スポンサーリンク



nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0

トラックバックの受付は締め切りました

この広告は前回の更新から一定期間経過したブログに表示されています。更新すると自動で解除されます。