三菱重と日立 発電統合の理由

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 三菱重工業と日立製作所が火力発電を中心とした発電関連事業を来年1月に統合する。長年、ライバル関係にあった両社が稼ぎ頭の事業統合に動いた背景には、国内市場に安住したままではじり貧に陥るという強い危機感があった。世界市場をにらんだ“スーパー重電メーカー”の誕生は、ライバル東芝の事業戦略に影響を与えるのは確実で、さらなる業界再編の呼び水ともなりそうだ。

日立、原発で一世一代の大勝負! リスク覚悟、自社製海外建設の勝算は?

 「何ができるか、よく話し合ってみましょう」

 うだるような暑さが続いた昨年夏。都内で極秘裏に会談した三菱重工の大宮英明社長と日立の中西宏明社長は、火力発電事業の統合に向けた協議を進めることを互いに確認しあった。両社の平成24年度の発電事業の営業利益見通しは三菱重工が900億円、日立が260億円といずれも堅調。にもかかわらず、両社長が統合に向けた交渉に乗り出したのは先行きに対する強い危機感からだった。

 両社にとって、メーンの顧客は国内電力会社だ。だが、電力会社の23年度の設備投資総額は2兆円で、ピークの5年度に比べて半分以下にまで縮小した。成長を目指すには新興国市場の取り込みが欠かせないが、海外の受注では値引きを競う不毛な消耗戦を繰り返してきた。その間に独シーメンスや米ゼネラル・エレクトリック(GE)が次々と大型受注を獲得、三菱重工、日立が単独で巻き返すのは容易ではない状況に陥った。

 「国内勢同士で戦うのではなく、統合で強くなって海外と戦う体制を整えよう」。腹を決めた両社の動きは素早かった。トップ会談後、統合の準備チームが発足。両社間での綿密なすり合わせの結果、「だーっと短時間で話が進んだ」(大宮社長)という。26年1月に発足する合弁会社の出資比率が最大の争点だったが、三菱重工65%、日立35%で折り合った。両社の将来の事業利益を基に試算した結果といい、日立も「技術と力を結集して事業が強くなることの方が大事」(中西社長)と過半を大きく下回ることを受け入れた。

 統合後、単純合算の事業売上高は約1兆1千億円。単独では5倍以上の格差があったシーメンスの約2兆9千億円、GEの約2兆5千億円の背中はなお遠いが、「統合で追い上げる体制が整う」と両社長は口をそろえる。

 なぜなら両社は得意とする製品や展開地域に重複が少なく、シナジー(相乗)効果が見込めるからだ。三菱重工は大型ガスタービンの発電装置が得意で、日立は中小型と棲み分けができている。これまでは片方の分野しか受注できなかったが、統合後はそれぞれの製品を売り込め、受注機会は格段に増える。しかも三菱重工は中東や東南アジアに強く、日立は欧州やアフリカ中心に展開しており、補完関係が築ける。

 単独では大規模投資が必要となる新製品開発や新規市場開拓を統合で効率化。余分な資金と時間を省き、今後の成長が見込めるアジアなど新興国市場の需要取り込みに注力することができる。相乗効果を早期に発揮すれば「世界の3強と呼ばれる存在」(大宮社長)も、決して“夢物語”ではなくなる。

 さらに両社は他の事業でも提携を拡大する可能性を否定していない。筆頭は原子力発電事業。原発は日立がGE、三菱重工が仏アレバと連携しており、今回の統合では対象外となったが、大宮社長は「国内原発の再稼働見通しがはっきりした段階で話し合う」といい、中西社長も「可能性を見極めたい」と将来に含みを持たせる。

 追い込まれてからではなく、世界で勝つために三菱重工と日立が選択した事業統合という決断は、重電業界に地殻変動をもたらす可能性がある。実際、日立は三菱重工との統合発表を受け、GEとの火力発電事業の提携を解消する方針を表明。一方で、GEと火力発電事業で連携する東芝は「連携強化は、もちろん選択肢にはある」(佐々木則夫社長)とGEとの関係強化を示唆。業界再編の芽は確実に大きくなっているようにもみえる。

 テレビ事業で韓国メーカーの後塵(こうじん)を拝し、パナソニックやシャープが巨額の赤字を余儀なくされるなど、世界市場における日本メーカーの競争力は大きく低下している。そうしたなかで、重電分野は日本メーカーがなお強みを維持している分野だ。さらに世界の「勝者」を目指して誕生する新会社の成否は、日本企業が再び輝きを取り戻すための試金石でもある。(今井裕治)


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